

不正放送の転写内容
通信帰属:[DATA CORRUPTED]
傍受からの経過時間:43時間
>放送の転写。記録元:[data corrupted]
>[ダーメ]に登録された宇宙船からの傍受
>登録シリアルナンバー:[data corr-none of your damn business-upted]
>転写内容:
NORA:「長い夜ね、夢見るもの達。今夜のタイトビームは利益を訴えるプロパガンダと、ドラーク・ティック・シチューのレシピを語り合うグリニア達の会話ばかり。まぁ平和なのもたまにはいいわね。
なんて言うわけないでしょ。女は危険を求める時もあるの。範囲を極力縮めて、ラジオらしく通信でも受け取るわ。お話してちょうだい。考えていることを教えて。あ、でもわたしを「追跡」しようなんて考えないで。そんな事考える前にもういなくなっているから。Noraが立ち止まることはないの。OK、オンラインよ。後悔させないでね。
最初のコーラーは… おかしいわね。」
コーラー:「もしもし? もしもし… あの、繋がっていますか?」
NORA:「それはこっちが聞きたいわ。ダイモスから掛けているの? また物騒な月から掛けて来たわね。あんな所に居座る不思議ちゃんが居たとは驚きだわ。ちゃんと顔付いてるのかしら。」
コーラー:「ああ、よかった! はい。いえ、その… 実を言うと私はここの出身ではありません。本来なら、私が「居座る」べき場所はこんな所ではなく、安全なコーパススタンチョンの筈なんですが、何で私がこんな目に…」
NORA:「コーパス? あなたコーパスなの? ヤバい、早速ハズレ引いちゃったわ。通信を終了するわ。」
コーラー:「待ってください、違うんです! 私は… Latroxと言います。Latrox Uneです。」
NORA:「いいわ。1分あげるわ。怖がっているようね、Latrox Une。言いにくいわね、その名前。友達はなんて読んでいるの?」
コーラー:「友達? その、あまり… 以前ラボパートナーは居ましたが。ローテーション3回くらいは一緒に配属された仲ですが。あまりないことなので。彼女は、その、私のことをよく”Roxy”と呼んでいました。それならどうでしょうか?」
NORA:「皆は誰かにとっての何かなのよ、Roxy。利益主義者も。でも確かに最近だとその境界線さえあやふやね。ナルメルは人の名前と顔を奪うし、もうメチャクチャ。グリニアはソラリスと色々あるし。現に今、コーパスさんがわたしに話しかけているし。時の流れとは恐ろしいわね。」
コーラー:「正直、理解できないですね。あまり外出しないので。できない、が正確でしょうか。本当に。私はとある長期契約を結んでいるので。正直… かなり退屈です。何かに捕食されようとしている時以外は。あるいは消化されようとしているか。あるいは両方か。」
NORA:「そうね、かなりの難儀を歩んでいるようね。Origin太陽系で特に恐れらている場所で生き抜いている所とかね。」
コーラー:「ゲホッ! んんん、そう、いや、はい。いや、これは大きな声で言えないので。現在の… 雇用主… との機密保持契約があるので。」
NORA:「勿体ぶらないで、Roxy。焦らし過ぎると下心があると勘違いしちゃうわよ。わたしを追跡するのが目的じゃないなら、何で通話してきたの?」
コーラー:「ハー… そう、そうですよね。等価交換、ですよね。あなたの時間は貴重だ、だから私もそれ相応のものを与えないと…」
NORA:「Roxy…」
コーラー:「ダイモス。いつもなら退屈、そうですよね? 私は感染体の… サンプルを… 調査の為集めています。 ダイモスには生態系がない、そう思う人が多いでしょうが、事実は異なります。確かに、感染した器官の恒常性は非常に残酷ですが、驚くほど脆弱です。私は現場で、シストのいくつかを切断し、生態系に大きな影響が起きていないかを調べて、残った組織は再び動き出す前に焼却します。恐怖に叫びながら作業を行うので、一息ついてから、現場を離れます。それだけです。
あの… まだ繋がっていますか?」
NORA:「もっとお話して。」
コーラー:「普段はそれで終わりなのですが。住めば都と言うやつでしょうか。今はこの風景も見慣れたものです。もちろん叫び出すのも助かりますが。吹っ切れる感じがします。
これは記録なのです。ダイモスの。増殖物、膿疱、血腫。醜く、湿っぽい、この地の詩なのです。
そして変わったのです。」
NORA:「『変わった』。」
コーラー:「すみません、長らく一人身であった老いぼれの戯れ言ばかりで退屈でしょう、でも…」
NORA:「何処にも行かないわ、Roxy。大丈夫だから。続けてちょうだい。
…Roxy?」
コーラー:「あ、ああ! すみません… ふと考えてしまって… 本当に伝えていいのだろうかと。もしこれが全て感染体によるまやかしなら? でも、もしそうでないなら、知られるべきである。あなたならこの事態を発信できる。万が一に備えて。」
NORA:「Roxy… 万が一って?」
コーラー:「万が一感染体が恐れている何か… 何者かが… ダイモスの外を出た場合。」
NORA:「ちょっと待って。 感染体が恐れている? 感染体がそう言ったの?」
コーラー:「いえいえ違います。まあ、少なくても言葉では。そんなのありえない。外分泌液を通じてです。」
NORA:「へぇ。 外分泌…」
コーラー:「そう、外分泌液です。最近… 騒がしいのです。そして毛細血管も血液をどんどん速く送り出しています。この時期ならヒポローマ・ソアも満開していてもおかしくないのですが、どうも活気がないのです。色も褪せていて。多分… 目立たないようにしているんだと思います。気付かれないようにひっそりと。」
NORA:「そしてそれは… よくないことなの?」
コーラー:「正気じゃないですよね、私。」
NORA:「あるいはその醜い世界のことをわたしより知っているのかも。」
コーラー:「ハハ。まぁ。そうですね。それは確かです、はい。ハー… でも誰かに話しを聞いて貰えるだけでも気分がいいです。多分… 思い込みなのでしょう、ね?」
NORA:「ダイモスは健康診断がいるのかもね。「外出ろ!」とか、「ランニング言ってこい!」とか、「食生活見直せ!」とか。知らないけど。」
コーラー:「ハハハ… そうかもしれませんね。でも… ありがとうございます。こんな老いぼれと話して頂いて。察しの通り、一人でこのような場所にいると、考え込んでしまうのです。蠕動や嘗動なども含めてね。」
NORA:「いいのよ、Roxy。元気でね。」
コーラー:「でも一番精神に来るのはノック音です。」
NORA:「え?」
コーラー:「絶え間なく続くノック音です。終わることがないのです! 何にせよ、他のコーラーもいるでしょうしそろそろ…」
NORA:「どんなノック音なの、Roxy?」
コーラー:「それは… 一晩もまともに休めない程のノック音です。もしかしたらそれの所為でこうやって会ったこともない女性に話しかけているのかもしれませんね…」
NORA:「夢の中でも聞こえると言うの?」
コーラー:「それは… 確かに夢の中の出来事だったかもしれませんが、それが何か…」
NORA:「どんな音なの?」
コーラー:「はい?」
NORA:「ノック音よ、Latrox。どんな音なの?」
コーラー:「それは… ノック音です。古錆びたパイプのような。リザルモグラが叩き込んでいるような。そんな音です。」
NORA:「その音はどんなリズム? ビートのようなものはあった?」
コーラー:「えー、リズムですか? そんなものは… いやでも、確か… 1-2-3。1-2-3。かつて私の操舵員が歌っていた、オロキンワルツのような。あの… 私何か変なこと言いましたか?」
NORA:「データを送ってちょうだい、Roxy。全部よ。」
[通信終了]